うつ状態のとき、瞑想は治療の代わりになりません。治療は医療に委ねてください。瞑想は、医療と並行して、日々を整える道具として使うものです。
研究では、瞑想のプログラムが抑うつ症状に中程度の効果を示したという報告があり、再発予防を目的とした体系も研究されています。ただし、効果は限られ、人によります。
重い落ち込み、死にたい気持ちがあるときは、瞑想を勧めません。まず受診してください。
最初に — 医療に委ねる線
このページは、うつ状態にある方、あるいはその家族が、「瞑想は役に立つのか」と検索して来られることを想定して書いています。最初に、線を明確にします。
うつ病や、それに近い状態の診断と治療は、医療の仕事です。瞑想は、その代わりにはなりません。薬や通院をやめて瞑想に置き換えることは、しないでください。「瞑想で治す」という言葉を見かけたら、距離を置いてください。
次のような状態にある方には、私は瞑想を勧めません。まず、医療機関を受診してください。
- 死にたい、消えたい、という気持ちがある。
- 起き上がれない、食べられない、眠れない日が続いている。
- 強い自責の念や絶望感に、一日中とらわれている。
- 現実感がない、自分が自分でないように感じる。
こうした状態のとき、一人で座って内側を見つめることは、落ち込みを深くする場合があります。瞑想は、ある程度の落ち着きが戻ってから、主治医に相談のうえで、少しずつ取り入れるものです。
このページで書くのは、その「ある程度の落ち着きが戻った段階」で、瞑想がどう役に立ちうるか、どう座ればよいか、何に気をつけるかです。
研究が示していること
瞑想と抑うつの関係については、研究の蓄積があります。ただし、その範囲は限られています。
2014年に JAMA Internal Medicine に発表されたメタ分析(Goyal らによる、複数の臨床研究をまとめて検討したもの)では、マインドフルネス瞑想のプログラムが、抑うつ症状に対して中程度の効果を示したと報告されています。同時に、研究の質にばらつきがあること、他の積極的な治療法と比べて優れているという証拠は見いだせなかったことも述べられています。
もう一つ、よく知られている体系に、マインドフルネス認知療法(MBCT)があります。Segal、Williams、Teasdale の三人が、うつの再発予防を目的として開発したもので、マインドフルネス瞑想と認知療法の考え方を組み合わせた8週間のプログラムです。うつを繰り返し経験した人を対象にした研究で、再発率が下がる方向の結果が報告されており、特に再発を重ねている人で差が見られたとされています。
ここから言えることは、次の通りです。
- 瞑想のプログラムが、抑うつ症状を和らげる方向に働くという報告がある。効果の程度は「中程度」であり、劇的ではない。
- 再発予防を目的とした体系(MBCT)があり、研究が重ねられている。ただし、これは訓練を受けた専門家のもとで行う構造化されたプログラムであり、一人で座る瞑想と同じものではない。
- いずれも、治療の代わりとして示されたものではなく、医療の枠組みのなかで研究されている。
「瞑想でうつが治る」とは、研究からは言えません。「医療と並行して、再発を防ぐ助けになる可能性が研究されている」までが、現時点で言える範囲です。
うつ状態のとき、瞑想は何ができるか
落ち着きがある程度戻った段階で、瞑想が働きかけられるものがあります。それは、考えの反芻(はんすう)です。
うつ状態では、同じ考えが、同じところを回り続けます。「私はだめだ」「あのとき失敗した」「この先もよくならない」。この堂々巡りは、落ち込みを深め、落ち込みがまた堂々巡りを呼びます。MBCT が注目したのも、この反芻でした。
瞑想は、反芻を止める方法ではありません。反芻が起きていることに気づく練習です。座って息を数えているうちに、「私はだめだ」が回り始める。それに気づく。「考えていたな」と認めて、息に戻る。消そうとはしません。消そうとすると、消えないことがまた自責の種になるからです。ただ、気づいて、戻る。
気づけると、考えと自分の間に、わずかな隙間ができます。「私はだめだ」という考えを、事実としてではなく、今浮かんでいる一つの考えとして眺められる瞬間が生まれます。この隙間が、瞑想がうつ状態に対してできることです。小さなことですが、反芻に飲み込まれる時間が少しでも減れば、日々は少し違ってきます。
うつのときに座るなら — 守ること
主治医に相談のうえで瞑想を取り入れる場合、次のことを守ってください。通常の瞑想より、安全側に寄せた形です。
- 短く。 5分から始めます。10分を超えないところで、しばらく続けます。長く座ることは、内側を見つめる時間を長くし、落ち込みを深める場合があります。
- 目を開けて。 閉眼より、半眼か開眼のほうが、考えに沈み込みにくくなります。
- 息か体に注意を置く。 考えを観察する瞑想より、息を数える数息観(すそくかん)や、体の感覚に注意を向ける方法のほうが、反芻に巻き込まれにくい傾向があります(瞑想の呼吸法 — 数息観から始める、ボディスキャン瞑想)。
- 動く瞑想も選択肢に。 座って内側を見るより、歩きながら足の感覚に注意を向けるほうが楽な場合があります(歩く瞑想のやり方)。
- 悪化したらやめる。 座った後に落ち込みが強くなる、不安が増す、眠れなくなる、という場合は、中断して主治医に伝えてください。
- 一人で抱えない。 できれば、瞑想に理解のある指導者か、医療者に、やっていることを伝えておきます。
- 治療をやめない。 瞑想が少し楽に感じられても、薬や通院を自己判断でやめないでください。
できない日があってかまいません。うつ状態では、「毎日座る」という決まりが、できなかった日の自責につながります。座れた日に座る、くらいの緩さで十分です。
家族や周囲の方へ
うつ状態の家族に、瞑想を勧めたいと考える方もいるでしょう。気持ちは分かりますが、慎重にお願いします。
本人が、起き上がることも、食べることもつらい段階で、「瞑想をしてみたら」と言われるのは、新しい課題を一つ増やされることになります。できないことが、また一つ増える。それは本人を追い詰めます。
勧めるとしたら、治療が進み、本人に少し余裕が戻ってから。そして、「やってみない?」より、「よかったら、私も一緒に座るから」のほうが、負担は軽いかもしれません。何より、医療につながっていることが先です。瞑想は、その後の話です。
仏教から見た「落ち込み」
仏教は、落ち込みという言葉が生まれる前から、人の心が沈む仕組みを見つめてきました。
仏教の見方では、苦しみの多くは、出来事そのものより、出来事に対する「とらわれ」から生じます。思い通りにならなかった、こうあるべきだった、なぜ自分だけが。うつ状態の反芻は、このとらわれが、同じ場所を回り続ける姿だと言えます。仏教の瞑想が行ってきたのは、とらわれを無理に手放すことではなく、とらわれていることに気づくこと。気づけば、とらわれは少しゆるむ。ゆるんだぶんだけ、苦しみも軽くなる。それだけです。
ただし、これは、ある程度心が動く状態での話です。仏教の伝統も、修行者の心身が弱っているときには、まず体を休め、食べ、眠ることを先にしました。禅病(ぜんびょう)と呼ばれる心身の不調に対して、白隠(はくいん)が示した対処も、「頭を使う行をやめ、体を落ち着かせる」ことでした。心が沈みきっているときに、さらに心を使う行をするのは、伝統の考え方からも順序が違います。
私は、死を見つめることが生を取り戻す入口になる、と考えて瞑想を伝えています。しかし、うつ状態で「死にたい」という気持ちがあるときに、死を見つめる瞑想を勧めることはありません。それは、入口ではなく、危険です。その方に必要なのは、瞑想ではなく、医療と、休息と、人の支えです。
康照から、ひとこと
私は、うつ状態の方に、「瞑想をすれば楽になる」とは言えません。
言えないことを、正直に書いておきたいと思いました。
瞑想は、治療ではありません。
治療は、医療の方にお任せしてください。
瞑想にできるのは、少し落ち着いてきた日に、5分、息を数えて、「また同じことを考えていたな」と気づく。
それだけです。
それだけですが、それだけのことが、堂々巡りの日々に、小さな隙間をつくることはあるのではないでしょうか。
急がなくていいと思っています。
まず、休んでください。
よくある質問
うつ病の治療中ですが、瞑想をしてもいいですか
主治医に相談のうえで、短い時間から取り入れることはできます。薬や通院をやめて瞑想に置き換えることは、しないでください。座った後に落ち込みや不安が強くなる場合は中断し、主治医に伝えてください。
瞑想でうつは治りますか
治るとは言えません。研究では、瞑想のプログラムが抑うつ症状に中程度の効果を示したという報告や、再発予防を目的とした体系(MBCT)の研究がありますが、いずれも医療の枠組みのなかで、治療と並行して検討されたものです。
死にたい気持ちがあります。瞑想は助けになりますか
その状態では、瞑想を勧めません。まず、医療機関を受診してください。夜間や休日で受診が難しいときは、地域の相談窓口や、いのちの電話など、話を聴いてくれる窓口に連絡してください。瞑想は、落ち着きが戻ってからの話です。
マインドフルネス認知療法(MBCT)はどこで受けられますか
訓練を受けた専門家が、医療機関や心理の機関で提供しています。主治医や心理職の方に、受けられる場所があるかを相談してください。本やアプリで内容を知ることはできますが、プログラムそのものは専門家のもとで行うものです。
瞑想をすると、かえって落ち込みます
その場合は、やめてください。うつ状態では、内側を見つめる時間が落ち込みを深めることがあります。歩く瞑想や、体の感覚に注意を向ける方法に変える、時間を短くする、という工夫もありますが、悪化が続くなら中断し、主治医に伝えてください。
関連するページ
参考文献
- Goyal, M. et al. (2014). Meditation Programs for Psychological Stress and Well-being: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Internal Medicine, 174(3), 357–368.
- Segal, Z. V., Williams, J. M. G., & Teasdale, J. D. (2002). Mindfulness-Based Cognitive Therapy for Depression: A New Approach to Preventing Relapse. Guilford Press.
- Teasdale, J. D., Segal, Z. V., Williams, J. M. G., Ridgeway, V. A., Soulsby, J. M., & Lau, M. A. (2000). Prevention of relapse/recurrence in major depression by mindfulness-based cognitive therapy. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 68(4), 615–623.
- 白隠慧鶴『夜船閑話』(江戸時代。禅病とその対処を記した書)


