寝る前の瞑想は、頭の中の考えごとを静め、眠りに入りやすい状態をつくる助けになります。
仰向けで行い、そのまま眠ってしまって構いません。眠るための瞑想と、心を鍛える座る瞑想は、目的が違います。
ただし、不眠の治療や薬の代わりにはなりません。眠れない日が続くなら医療機関に相談してください。
眠れないとき、瞑想は何をするのか
布団に入っても、考えごとが止まらない。明日の予定、今日の失敗、将来の心配。体は疲れているのに、頭だけが起きている。50代以降、こうした夜が増えたという方は多いと思います。
眠れない夜に起きているのは、多くの場合、「考えが考えを呼ぶ」状態です。一つの心配が次の心配を連れてきて、気づけば何十分も同じところを回っている。この状態では、体がどれだけ疲れていても、眠りは入ってきません。
瞑想が働きかけるのは、この「考えが考えを呼ぶ」回路です。息に注意を置くことで、考えの連鎖に小さな切れ目を入れる。切れ目が入ると、頭の活動が少し静まり、体の眠気が表に出てきやすくなります。瞑想は眠らせる方法ではなく、眠りを邪魔しているものを静める方法です。
研究が示していること、示していないこと
瞑想と睡眠の関係については、マインドフルネスストレス低減法(MBSR・Kabat-Zinn が始めた8週間のプログラム)を土台にした研究の蓄積があります。マインドフルネスのプログラムが、参加者自身による睡眠の質の評価をよくする方向に働いたという報告があります。
一方で、2014年に JAMA Internal Medicine に発表されたメタ分析(Goyal らによる)では、瞑想のプログラムが不安、抑うつ、痛みに中程度の効果を示した一方で、睡眠については十分な証拠が得られていないと述べられています。つまり、睡眠に関しては、期待できる報告はあるものの、効果がはっきり確立されているとまでは言えない段階です。
ですから、このページで言えることは、次の範囲にとどまります。
- 寝る前の瞑想が、考えごとを静めて眠りに入りやすくする助けになる、という経験と報告がある。
- 研究は蓄積されつつあるが、効果の程度や確かさについては慎重に見る必要がある。
- 不眠症と診断されるような状態、眠れない日が何週間も続く状態は、瞑想で対処するものではなく、医療に相談するものである。
- 睡眠薬や治療を、自己判断で瞑想に置き換えてはならない。
寝る前の瞑想のやり方
寝る前に行う瞑想の手順を書きます。これは「眠るための瞑想」であり、眠ってしまってよいことが前提です。
- 布団に入り、仰向けになります。手は体の横か、お腹の上に置きます。
- 目を閉じます。
- 体の重みが布団に沈んでいくのを感じます。頭、肩、背中、腰、足。順に、布団に預けていきます。
- 吐く息に合わせて、一から十まで数えます。十まで数えたら一に戻ります。
- 考えが浮かんだら、消そうとせず、「考えていたな」と気づいて、息に戻ります。
- 途中で眠ってしまって構いません。眠ってしまったら、それで瞑想は終わりです。
私は、仰向けで瞑想している場合、そのまま寝てもよいと伝えています。眠るために横になって始めた瞑想で、眠りに入れたのなら、それは成功です。「寝てしまった、失敗した」と考える必要はありません。
数を数えるのが落ち着かない方は、体の各部に順に注意を向ける方法(ボディスキャン)でも構いません。足の先から頭まで、ゆっくり注意を移していく。多くの方は、途中で眠りに入ります(ボディスキャン瞑想)。
眠るための瞑想と、座る瞑想は別のもの
ここで、一つ整理しておきたいことがあります。眠るための瞑想と、心の働きを養う座る瞑想は、目的が違います。
座る瞑想は、目を開けるか半眼にし、背骨を立て、眠らないように行います。心がそれたことに気づいて戻る、という働きを育てるためです。この瞑想で眠ってしまうなら、目を開ける、時間帯を変える、といった対処をします(瞑想すると眠くなる原因と対処)。
寝る前の瞑想は、横になり、目を閉じ、眠ってもよい前提で行います。考えごとを静めて、眠りに入りやすくするためです。
両方を行う方は、座る瞑想を朝や日中に、寝る前の瞑想を夜に、と分けるとよいでしょう。寝る前の瞑想だけを行う方も、それで構いません。ただ、「瞑想をしているのに、心の変化が感じられない」という場合、寝る前の瞑想だけでは、起きている時間の気づきが育ちにくいことは知っておいてください。
夜中に目が覚めたとき
寝つきはよいが、夜中に目が覚めて眠れなくなる、という方もいます。50代以降では、よく聞く悩みです。
夜中に目が覚めたときも、同じ瞑想が使えます。時計を見ず、「眠らなければ」と焦らず、仰向けのまま息を数えます。眠れなくても、息を数えている間は、考えごとの連鎖から離れています。それだけでも、体は休んでいます。
「眠らなければ」という焦りは、眠りを遠ざけます。焦りに気づいたら、「焦っているな」と気づいて、息に戻ってください。眠れないことを責めるのではなく、眠れない時間を静かに過ごす。その姿勢が、結果として眠りを呼びやすくします。
不眠が続くときは医療へ
ここは、はっきり書いておきます。
眠れない日が何週間も続く、日中の生活に支障が出ている、気分の落ち込みを伴っている、といった場合は、瞑想で何とかしようとせず、医療機関(内科、心療内科、精神科、睡眠外来など)に相談してください。不眠には、体の病気や心の病気が隠れていることがあり、瞑想では対処できません。
また、すでに睡眠薬や治療を受けている方は、自己判断でやめて瞑想に置き換えることは、しないでください。瞑想は、治療と並行して行う分には問題ないことが多いですが、主治医に伝えたうえで行ってください。
瞑想は、眠りを邪魔する考えごとを静める助けにはなりますが、不眠の治療ではありません。
仏教から見た「眠り」
仏教では、眠りを否定しません。修行者も眠ります。ただ、眠りを「意識が途切れる時間」としてではなく、心身を整える営みの一部として扱ってきました。
一つの視点として、密教の修行の見方も添えます。密教の修行は、身(からだ)・口(ことば)・意(こころ)を整える三密(さんみつ)を土台にしています。眠れない夜は、このうちの「意」が暴走している状態です。考えが考えを呼び、心だけが走り続けている。密教の順序では、心を直接止めようとするより、体と息から整えます。体を布団に預け、息を数える。体と息が静まれば、心は後からついてきます。寝る前の瞑想は、この順序そのものです。
もう一つ、仏教が伝えてきた見方を添えます。眠れない夜、私たちは「眠れないこと」を苦しみます。しかし、眠れないこと自体より、「眠らなければならないのに眠れない」という思いのほうが、苦しみの中身です。この思いに気づいて、少し手放す。眠れなくても、横になって息を数えていれば、体は休んでいる。そう受け取れたとき、夜は少し楽になります。
康照から、ひとこと
私は、眠れない夜に「眠ろう」と頑張らなくていいと思っています。
頑張るほど、眠りは遠ざかります。
横になって、息を数える。
眠れたら、それでよい。
眠れなくても、息を数えている間、体は休んでいます。
瞑想は、眠らせる道具ではありません。むしろ、眠りを邪魔している「眠らなければ」という思いを、そっと横に置く時間だと思っています。
それでも眠れない日が続くなら、一人で抱えず、医療の力を借りてください。
それも、整えることの一つではないでしょうか。
よくある質問
寝る前の瞑想で寝てしまっても瞑想になっていますか
なっています。眠るために横になって行う瞑想は、眠ることが前提です。寝てしまったら、それで終わりで構いません。
瞑想すれば睡眠薬をやめられますか
自己判断でやめないでください。瞑想は治療の代わりにはなりません。薬を減らしたい場合は、主治医に相談してください。
寝る前の瞑想は何分やればいいですか
決めなくて構いません。眠るまで、または眠くなるまでです。タイマーは不要です。目安を持ちたい方は10分程度から始めてください。
夜中に目が覚めて眠れません。瞑想は役に立ちますか
仰向けのまま息を数える方法が使えます。時計を見ず、「眠らなければ」という焦りに気づいたら息に戻ってください。ただし、中途覚醒が何週間も続く場合は、医療機関に相談してください。
座る瞑想を夜にやると眠くなります
座る瞑想は、頭が起きている時間帯に行ってください。夜は寝る前の瞑想、座る瞑想は朝や日中、と分けると両立します。
関連するページ
参考文献
- Goyal, M. et al. (2014). Meditation Programs for Psychological Stress and Well-being: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Internal Medicine, 174(3), 357–368.
- Kabat-Zinn, J. (1990). Full Catastrophe Living. Delacorte Press.(マインドフルネスストレス低減法(MBSR)の原典)
- Tang, Y.-Y., Hölzel, B. K., & Posner, M. I. (2015). The neuroscience of mindfulness meditation. Nature Reviews Neuroscience, 16(4), 213–225.


