自律神経は、自分の意思では直接動かせない神経です。ただ、呼吸だけは、意思でも自律でも動かせます。瞑想が自律神経と関わるとされるのは、この呼吸を通してです。
ゆっくりした呼吸や瞑想が、体を落ち着ける方向の働きと関わるという研究はあります。ただし、「瞑想で自律神経が整う」と言い切れる段階ではありません。
動悸、めまい、不眠などの不調が続く場合は、瞑想で対処しようとせず、医療機関に相談してください。
自律神経とは何か
自律神経は、心臓の拍動、呼吸、血圧、体温、消化、発汗など、生命を保つための働きを、意思とは関係なく調整している神経です。「自律」とは、自分で勝手に動く、という意味です。眠っている間も心臓が動き、食べたものが消化されるのは、この神経の働きです。
自律神経には、大きく二つの働きがあります。
- 交感神経:体を活動と緊張の方向に向けます。心拍を速め、血圧を上げ、筋肉に力を入れさせます。危険に備えるとき、働くとき、争うときの神経です。
- 副交感神経:体を休息と回復の方向に向けます。心拍を落ち着かせ、消化を進め、体をゆるめます。眠るとき、食べるとき、安心しているときの神経です。
この二つは、どちらか一方が良い、というものではありません。昼は交感神経が、夜は副交感神経が、それぞれ優位になりながら、一日のなかで切り替わるのが健康な状態です。問題になるのは、切り替わりがうまくいかないときです。夜になっても交感神経が高いままで眠れない、朝になっても体が起きない、緊張が抜けない、といった状態です。
「自律神経の乱れ」と一般に呼ばれるのは、この切り替わりの不調を指すことが多いようです。ただし、これは医学的な診断名ではなく、不調の背景にはさまざまな原因がありえます。不調が続く場合は、自己判断せず、医療機関で診てもらってください。
なぜ瞑想が自律神経と関わるとされるのか
自律神経は、意思で直接動かせません。「心拍を遅くしよう」と念じても、遅くなりません。ところが、一つだけ例外があります。呼吸です。
呼吸は、眠っている間は自律神経が勝手に動かしていますが、起きているときは、意思で速くも遅くもできます。意思と自律の両方がつながっている、唯一の窓口です。ゆっくり、長く息を吐くと、体は休息の方向に傾きやすくなる。これは多くの人が経験として知っていることで、深呼吸をすると落ち着く、というのはそのことです。
瞑想、とりわけ呼吸に注意を向ける瞑想は、この窓口を使っています。数息観(すそくかん・息を数える瞑想)では、吐く息に合わせて数を数えます。数えているうちに、呼吸は自然とゆっくり、深くなります。意図的に深呼吸をするのとは少し違い、注意を向けることで、呼吸が自分で落ち着いていく、という形です。
もう一つ、瞑想は、頭のなかの騒ぎを少し静めます。心配事を考え続けているとき、体は、実際には危険がなくても、危険に備える方向に働き続けます。考えに気づいて息に戻る、を繰り返すと、備え続ける必要がないことを、体が少しずつ受け取っていく。これも、瞑想が自律神経と関わるとされる道筋の一つです。
研究が示していること、示していないこと
瞑想と自律神経の関係については、研究の蓄積があります。ただし、個別の研究は規模も方法もまちまちで、確かな結論を一つの文献に託せる段階ではありません。ですから、ここでは「こういう研究がある」という程度にとどめます。
瞑想やゆっくりした呼吸が、心拍の変動、血圧、ストレスに関わるホルモンなど、自律神経の働きを反映すると考えられる指標に影響を与えるという報告は、複数あります。一方で、研究の規模が小さいもの、対照群の設定が十分でないもの、効果が短期的なものも多く、結果は一様ではありません。
より確かなことが言えるのは、自律神経そのものよりも、その周辺です。2014年に JAMA Internal Medicine に発表されたメタ分析(Goyal らによる)では、瞑想のプログラムが不安や抑うつ、痛みに中程度の効果を示したと報告されています。不安や抑うつは、自律神経の不調と関わりの深い状態です。また、2015年に Nature Reviews Neuroscience に発表された総説(Tang・Hölzel・Posner による)では、瞑想が感情の調整やストレス反応に関わる脳の働きに影響を与えることが示唆されています。
ここから言えることは、次の通りです。
- 瞑想やゆっくりした呼吸が、体を落ち着ける方向の働きと関わることを示唆する研究がある。
- ただし、「瞑想で自律神経が整う」「自律神経失調症が治る」と言い切れる証拠はない。
- 効果は人によって異なり、短期的である場合も多い。
- 瞑想は、自律神経に関わる不調の治療の代わりにはならない。
「自律神経を整える瞑想」という言葉を見かけることがありますが、断定の強い表現には、距離を置いてください。
自律神経の乱れを感じるときの座り方
動悸がしやすい、緊張が抜けない、寝つきが悪い、朝がつらい。こうした状態で瞑想を取り入れるときの座り方を、手順で書きます。基本の瞑想と同じですが、呼吸を少し丁寧に扱います。
- 椅子か床に座り、背骨を自然に立てます。横になって行ってもかまいません(寝ながら瞑想はできるか)。
- 目を閉じるか、半分開けます。
- まず、何もせずに、今の呼吸の速さと深さを、ただ観察します。変えようとしません。
- 吐く息に合わせて、一から十まで数えます。吐く息を、吸う息より少し長くする意識を持ちますが、無理に長くはしません。
- 心配事が浮かんだら、消そうとせず、「考えていたな」と気づいて、息に戻ります。
- 体のどこかに力が入っていることに気づいたら、「力が入っているな」と気づくだけにします。ゆるめようとしなくても、気づくだけでゆるむことがあります。
- 5〜10分たったら、一度深く息をして、ゆっくり目を開けます。急に立ち上がらず、少し座ったまま過ごします。
注意が二つあります。一つは、呼吸をコントロールしすぎないことです。「もっと深く」「もっとゆっくり」と頑張ると、かえって息苦しくなり、緊張が増します。呼吸は、注意を向けていれば、自分で落ち着いていきます。もう一つは、動悸や息苦しさが瞑想中に強くなった場合は、目を開け、座るのをやめて、体を動かすことです。無理に続けないでください。
時間帯と、日常での使い方
自律神経の切り替わりを考えると、瞑想を行う時間帯には、それぞれ意味があります。
朝に座ると、一日を落ち着いた状態で始めやすくなります。夜、寝る前に座ると、交感神経が高いまま布団に入ることが減り、眠りに入りやすくなる場合があります(瞑想は朝と夜どちらがいいか、睡眠・不眠と瞑想)。私自身は、朝か夜のどちらかに、短い日は10分、長い日は60分座っています。
座る時間に加えて、日中に短く呼吸に戻る時間を持つと、切り替わりの助けになります。会議の前に三回、長く息を吐く。昼休みに1分だけ目を閉じる。帰りの電車で、肩の力に気づく。こうした短い気づきは、座る瞑想で育てた働きを日常に持ち出すものです(職場で3分でできる瞑想)。
瞑想だけで自律神経が整うわけではありません。睡眠、食事、運動、日光、人との関わり。これらが土台で、瞑想はその上に置くものです。土台を崩したまま瞑想だけを増やしても、体は整いません。
医療に相談する線
次のような場合は、瞑想で対処しようとせず、医療機関を受診してください。
- 動悸、めまい、息苦しさ、胸の痛みが繰り返し起きる。
- 眠れない日が続いている。
- 食欲がない、体重が減っている。
- 日常生活に支障が出ている。
- 瞑想をすると、かえって動悸や不安が強くなる。
自律神経の不調と思っていたものが、心臓や甲状腺など、別の原因によることもあります。まず体を診てもらい、そのうえで、医療と並行して瞑想を使うのであれば、主治医に伝えておいてください。
仏教から見た「体と心のつながり」
仏教の瞑想は、自律神経という言葉を知りませんでした。しかし、体と心が切り離せないことは、はじめから前提にしていました。
釈尊の瞑想の伝統では、呼吸への注意(安般念・あんぱんねん)が、もっとも基本の方法として置かれています。息を観察することで、心が静まり、体が落ち着く。二千年以上前の修行者も、呼吸が体と心をつなぐ窓口であることを、経験から知っていたのだと思います。
密教の観法では、身(からだ)・口(ことば)・意(こころ)を同時に整える三密(さんみつ)が基本に置かれています。心だけを整えようとするのではなく、姿勢を正し、呼吸と言葉を整え、そのうえで心を一点に置く。体から入って心を整える、という順序です。自律神経の不調を感じているとき、「心を落ち着けよう」と頑張るより、姿勢と呼吸から入るほうが、心は後からついてきます。「頑張るより、整える。」という私の考えは、この順序のことでもあります。これは密教だけのものではなく、坐禅が調身・調息・調心(ちょうしん・ちょうそく・ちょうしん)の順を説くことにも、同じ構造があります。
康照から、ひとこと
私は、「瞑想で自律神経が整います」とは言わないようにしています。
言い切れないからです。
分かっているのは、ゆっくり息を吐くと、体が少し静かになる、ということだけです。
それは、誰でも知っていることかもしれません。
瞑想は、その「誰でも知っていること」を、毎日、10分、丁寧に行う時間なのではないでしょうか。
頑張って整えるのではありません。むしろ、頑張るのをやめて、息に戻る。
体は、それを待っているのかもしれないと、私は思っています。
不調が続くなら、どうか医療の力を借りてください。
よくある質問
瞑想で自律神経失調症は治りますか
治るとは言えません。瞑想やゆっくりした呼吸が体を落ち着ける方向と関わるという研究はありますが、治療の代わりになる証拠はありません。不調が続く場合は、医療機関で診てもらい、治療と並行して瞑想を使うのであれば主治医に伝えてください。
自律神経を整えるには、どんな瞑想がいいですか
呼吸に注意を向ける瞑想、数息観が基本です。吐く息を少し長めにする意識を持ち、無理にはコントロールしません。横になって行う方法や、体の感覚に注意を向けるボディスキャンも、落ち着きやすい方が多いようです。
瞑想中に動悸がして怖くなります
目を開け、座るのをやめて、体を動かしてください。無理に続ける必要はありません。繰り返し起きる場合は、医療機関に相談してください。不安が強まるときの対処は瞑想で不安や恐怖が強くなるときに書きました。
呼吸法と瞑想は違うものですか
重なる部分が多いですが、呼吸法は呼吸を意図的に操作する技法、瞑想は呼吸に注意を向けて観察する実践、という違いがあります。自律神経に関しては、どちらも「吐く息を長くする」方向で体を落ち着ける点は共通しています(呼吸瞑想・数息観とは)。
朝と夜、どちらに座るのが自律神経にいいですか
どちらにも意味があります。朝は一日を落ち着いて始めるため、夜は交感神経が高いまま眠りに入ることを防ぐため。続けられる時間帯を選んでください。
関連するページ
参考文献
- Goyal, M. et al. (2014). Meditation Programs for Psychological Stress and Well-being: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Internal Medicine, 174(3), 357–368.
- Tang, Y.-Y., Hölzel, B. K., & Posner, M. I. (2015). The neuroscience of mindfulness meditation. Nature Reviews Neuroscience, 16(4), 213–225.


