瞑想と脳 — 研究で分かったこと、まだ分からないこと

効果・目的別

瞑想が脳の働きに影響を与えることを示唆する研究は、蓄積されています。注意の制御、感情の調整、自己への気づきに関わる領域が、主に報告されています。
脳の構造の変化を報告した研究もありますが、規模が小さく、結果の解釈には慎重さが求められます。
「瞑想で脳が変わる」という言葉は、半分は研究に根ざし、半分は言い過ぎです。このページでは、その線を引きます。

「瞑想で脳が変わる」は本当か

「瞑想をすると脳が変わる」「8週間で灰白質が増える」。こうした見出しを、本や記事で見かけた方は多いでしょう。この言葉は、まったくの誇張ではありません。根拠になる研究はあります。ただし、研究が示していることと、見出しが伝えていることの間には、距離があります。

瞑想と脳の研究は、2000年代以降、脳の画像を撮る技術の普及とともに増えました。瞑想中の脳の活動を調べるもの、瞑想を続けた人と続けていない人の脳の構造を比べるもの、瞑想のプログラムの前後で脳を比べるもの。さまざまな方法で、さまざまな結果が報告されています。

このページでは、確かな総説と研究を手がかりに、何が示され、何がまだ示されていないかを、できるだけ正確に書きます。私は脳科学者ではありません。研究の中身を評価する立場にはありません。ただ、瞑想を教え、研究してきた者として、研究が言っていないことを言わない、という責任は持っているつもりです。

研究が示していること — 注意・感情・自己

もっともよく参照される総説の一つが、2015年に Nature Reviews Neuroscience に発表された、Tang・Hölzel・Posner による「マインドフルネス瞑想の神経科学」です。この総説は、それまでの研究を整理し、瞑想が主に三つの働きに関わる脳の領域に影響を与えることを示唆しています。

注意の制御。 注意を一点に向け、逸れたら戻す、という瞑想の基本の動作は、前帯状皮質(ぜんたいじょうひしつ)など、注意や葛藤の監視に関わる領域と結びつけて論じられています。瞑想の経験者は、注意に関わる課題での成績や、関連する脳の活動に違いが見られるという報告があります。

感情の調整。 感情に飲み込まれずに感情を扱う働きは、前頭前野(ぜんとうぜんや)と扁桃体(へんとうたい・恐怖や不安に関わる領域)の関係などと結びつけて論じられています。瞑想の実践が、感情への反応の仕方に関わる脳の活動に影響を与えるという報告があります。

自己への気づき。 自分についての考え、自分の体の感覚、自分の物語に関わる領域として、島皮質(とうひしつ)や、デフォルトモードネットワーク(何もしていないときに活発になる脳のネットワークで、自分についての考えや心のさまよいと関わる)が論じられています。瞑想の経験者では、このネットワークの活動や結びつきに違いがあるという報告があります。

この三つは、瞑想を実践している者の実感とも、おおむね重なります。注意を戻す練習をし、感情に少し距離を置けるようになり、自分の物語に飲み込まれにくくなる。研究は、この実感に対応する脳の働きを、少しずつ描き始めている、と言えます。

脳の構造は変わるのか — 灰白質の研究

よく引用されるのが、2011年に Psychiatry Research: Neuroimaging に発表された、Hölzel らの研究です。8週間のマインドフルネスストレス低減法(MBSR)のプログラムに参加した人の脳を、前後で比べたところ、海馬(かいば・記憶や学習に関わる)など、いくつかの領域で灰白質(かいはくしつ・神経細胞の集まる部分)の密度が増えたと報告されています。

これが、「8週間で脳が変わる」という言葉の出どころの一つです。この研究は、瞑想が脳の構造に影響を与えうることを示した点で、重要なものとされています。

ただし、知っておくべきことがあります。

  • 参加者の数は少なく、小規模な研究です。
  • 比較の対象となった人たちが、瞑想以外の点で同じ条件だったかには、限界があります。
  • 灰白質の密度の変化が、実際にどのような働きの変化に対応するのかは、この研究だけでは分かりません。
  • その後の研究で、同じような結果が出たものも、出なかったものもあります。

一つの研究で「脳が変わる」と言い切ることはできません。「変わる可能性を示した研究がある」が、正確なところです。

研究の限界 — 効果量と質のばらつき

瞑想と脳の研究について、Tang らの総説も含め、多くの研究者が指摘している限界を書きます。

効果の大きさは中程度です。 瞑想の心理的な効果を調べた、2014年の JAMA Internal Medicine のメタ分析(Goyal らによる)では、不安、抑うつ、痛みに対する効果は「中程度」と報告されています。脳の変化についても、劇的なものではなく、統計的に検出できる程度の差、と考えておくのが妥当です。

研究の質にばらつきがあります。 参加者が少ない、比較の対象が適切でない、一時点の比較で因果関係が分からない、瞑想の種類や時間がばらばら、といった問題が、少なからぬ研究にあります。瞑想の経験者と未経験者を比べた場合、もともと脳に違いのある人が瞑想を続けやすかった、という可能性も排除できません。

「脳が変わった」ことと「人生がよくなった」ことは別です。 脳の画像に差が出たとしても、それが日常の何に対応するのかは、別に検証が必要です。逆に、脳の画像に差が出なくても、本人の日常が整っていれば、それは瞑想の働きです。

宣伝に使われやすい分野です。 「脳科学が証明」という言葉は、人を安心させ、同時に判断を鈍らせます。瞑想に限らず、脳の画像を添えた主張には、少し距離を置いて読むことを勧めます。

こうした限界を踏まえると、言えることは次のようになります。瞑想は、脳の働きに影響を与える可能性がある。その影響は、注意、感情、自己への気づきに関わる領域で、主に報告されている。構造の変化を示唆する研究もあるが、規模は小さく、再現には課題がある。効果は中程度で、劇的ではない。

脳の研究は、瞑想の何を変えたか

研究の限界を書いたうえで、脳の研究が瞑想にもたらしたものも、書いておきます。

一つは、瞑想を、宗教の外に開いたことです。「脳の働きに関わる実践」として語れるようになったことで、信仰を持たない人、医療や教育の現場の人が、瞑想を手に取りやすくなりました。瞑想が、僧侶や修行者だけのものではなくなったのは、この研究の蓄積によるところが大きいと思います。

もう一つは、瞑想の体験を、神秘化せずに語る言葉を与えたことです。瞑想中に光が見える、体が浮くように感じる、強い高揚が来る。こうした体験は、昔は魔境(まきょう)と呼ばれ、警戒されてきました。私は、これらを脳が及ぼす反応だと考えています。特別な意味はなく、起きたからといって進んだわけでも、間違ったわけでもない。脳の研究は、この見方を支えてくれます(瞑想の危険性 — 魔境・禅病とは何か)。

脳の研究は、瞑想を証明したわけではありません。しかし、瞑想を語る言葉を、少し増やしてくれました。

仏教から見た「脳」と「心」

仏教の瞑想は、脳という言葉を使いませんでした。心、あるいは識(しき)という言葉で、人の内側の働きを見つめてきました。

仏教の見方では、心は、固定した実体ではなく、一瞬ごとに生じては消える、流れのようなものです。注意が向くたびに心が生じ、逸れるたびに別の心が生じる。この流れを観察し、流れに飲み込まれないようにするのが、瞑想でした。脳の研究が、注意の制御や心のさまよいに関わるネットワークを描き出していることは、この古い観察と、不思議なほど対応しているように、私には見えます。

ただし、対応しているように見えることと、同じことを言っていることは、別です。脳の研究は「何が起きているか」を調べ、仏教の瞑想は「どう生きるか」を問うてきました。問いが違えば、答えも違います。私は、密教と量子物理学の接点にも関心を持っていますが、それも「世界観の対話」として語るもので、科学が密教を証明する、とは考えていません。脳の研究と瞑想の関係も、同じです。対話はできる。証明は、どちらの仕事でもない。

密教の観法では、身(からだ)・口(ことば)・意(こころ)の三密(さんみつ)を同時に整えることが基本に置かれています。心だけを対象にするのではなく、体と言葉を通して心に働きかける。脳の研究が、呼吸や姿勢、注意の向け方といった具体的な行為の影響を調べていることは、この「体から心へ」という順序と重なる部分があります。これは密教だけの考え方ではなく、坐禅が調身・調息・調心の順を説くことにも、同じ構造があります。

康照から、ひとこと

私は、「瞑想で脳が変わる」という言葉を、あまり使わないようにしています。
使えないわけではありません。根拠になる研究はあります。
けれど、私が瞑想を続けているのは、脳を変えたいからではないのです。
10分座って、雑念に気づいて、息に戻る。
それを毎日繰り返しているうちに、日常が、少し静かになった。
脳のどこがどう変わったかは、分かりません。
分からなくても、日常が整えば、それで十分ではないでしょうか。
研究は、瞑想を証明するためのものではなく、瞑想を語る言葉を増やしてくれるものだと、私は思っています。

よくある質問

瞑想で本当に脳が変わりますか

瞑想が脳の働きや構造に影響を与える可能性を示唆する研究はあります。ただし、構造の変化を報告した研究は小規模で、再現には課題があります。「変わる可能性がある」が、正確なところです。

どのくらい続ければ脳に変化が出ますか

8週間のプログラムの前後で脳の構造に差が出たという報告(Hölzel ら 2011)はありますが、これは一つの小規模な研究です。何週間、何分で変化が出る、と一般化できる段階ではありません。日常を整えることを目的に、無理のない時間で続けることを勧めます。

瞑想は認知症の予防になりますか

瞑想が記憶や注意に関わる脳の領域に影響を与えるという報告はありますが、認知症の予防を示した確かな証拠は、私の知る範囲ではありません。断定的な主張には距離を置いてください。認知症については、医療機関に相談してください。

脳科学的に、どの瞑想法が一番効果がありますか

研究では、マインドフルネス瞑想を中心に調べられたものが多く、瞑想法どうしを直接比べた質の高い研究は限られています。「一番効く瞑想法」を脳科学が決めた、とは言えません。続けられる方法を選ぶことのほうが大切です。

瞑想中に光が見えたのは、脳が変わった証拠ですか

証拠ではありません。感覚への入力を絞って注意を一点に向け続けたときに、脳が及ぼす反応の一つです。意味づけをせず、息に戻ってください。頻繁に起きるなら、時間を減らしてください。

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参考文献

  • Tang, Y.-Y., Hölzel, B. K., & Posner, M. I. (2015). The neuroscience of mindfulness meditation. Nature Reviews Neuroscience, 16(4), 213–225.
  • Hölzel, B. K., Carmody, J., Vangel, M., Congleton, C., Yerramsetti, S. M., Gard, T., & Lazar, S. W. (2011). Mindfulness practice leads to increases in regional brain gray matter density. Psychiatry Research: Neuroimaging, 191(1), 36–43.
  • Goyal, M. et al. (2014). Meditation Programs for Psychological Stress and Well-being: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Internal Medicine, 174(3), 357–368.
  • Kabat-Zinn, J. (1990). Full Catastrophe Living. Delacorte Press.(マインドフルネスストレス低減法(MBSR)の原典)