集中力と瞑想 — 集中とは「戻る力」のこと、サマタ瞑想から

効果・目的別

瞑想で育つ集中力は、「心がそれない力」ではなく、「それたことに気づいて戻る力」です。
研究では、瞑想が注意の制御に関わる脳の働きに影響することが示唆されています。ただし、効果の程度は人によります。
やり方は、サマタ(止)の瞑想、つまり息を数えることから始めます。

瞑想で育つ「集中力」とは何か

「瞑想をすると集中力が上がる」とよく言われます。これは、ある意味では正しいのですが、「集中力」という言葉の中身を間違えると、瞑想に失望することになります。

多くの方は、集中力を「一つのことに注意を向け続け、他のことに気を取られない力」だと考えています。しかし、瞑想をしてみると分かる通り、注意は必ずそれます。息を数えていても、三つか四つで考えごとが始まる。これは、瞑想を何年続けても、完全にはなくなりません。

瞑想で育つのは、それないことではなく、それたことに「気づく」速さと、気づいてから「戻る」力です。注意がそれてから気づくまでの時間が短くなり、戻るのが滑らかになる。これが、瞑想が集中力にもたらす変化の中身です。

日常で言えば、本を読んでいて気づいたら別のことを考えていた、という経験は誰にでもあります。瞑想を続けると、「別のことを考えていた」と気づくのが早くなり、本に戻るのが早くなります。結果として、本を読んでいる時間が増える。これを外から見ると、「集中力が上がった」ように見えます。

研究が示していること、示していないこと

瞑想と注意の関係については、研究の蓄積があります。

2015年に Nature Reviews Neuroscience に発表された総説(Tang・Hölzel・Posner による)では、瞑想が注意の制御、感情の調整、自己への気づきに関わる脳の働きに影響することが示唆されています。注意の制御については、瞑想の訓練によって、注意に関わる脳の領域の活動や構造に変化が見られたという複数の研究が紹介されています。ただし、研究の多くは規模が小さく、方法にも限界があることが述べられています。

一方で、2014年に JAMA Internal Medicine に発表されたメタ分析(Goyal らによる)では、瞑想のプログラムが不安、抑うつ、痛みに中程度の効果を示した一方で、注意については十分な証拠が得られていないと述べられています。

ここから言えることは、次の通りです。

  • 瞑想が注意の制御に関わる脳の働きに影響する、という報告がある。
  • ただし、「瞑想で集中力が確実に上がる」と言えるほどの証拠は、まだ揃っていない。
  • 効果の程度は人によって異なり、短期間で劇的に変わるものではない。

ですから、このページでは「集中力が上がる」とは言い切りません。「それたことに気づいて戻る力が育つ、という実感と報告がある」というのが、正直な範囲です。

集中力を育てる瞑想のやり方 — サマタ(止)

集中に関わる瞑想は、仏教ではサマタ(止)と呼ばれます。心を一つの対象に静かに留める瞑想です。これに対して、ものごとをありのままに観察する瞑想をヴィパッサナー(観)と呼びます。集中力の話は、主にサマタ(止)に関わります。

私自身の毎日の実践も、サマタ(止)の瞑想が多いです。やり方は、数息観(すそくかん・息を数える瞑想)そのものです。

  1. 椅子か床に座り、背骨を自然に立てます。
  2. 目は閉じるか、半眼にします。眠くなる方は開眼で。
  3. 吐く息に合わせて、一から十まで数えます。十まで数えたら一に戻ります。
  4. 注意がそれて数が分からなくなったら、「それていたな」と気づいて、一に戻ります。
  5. 10分たったら終わります。

集中力の練習として見ると、大事なのは4番です。それたことに気づく瞬間、戻る瞬間。この二つを、10分の間に何十回も繰り返す。この繰り返しが、気づく速さと戻る力を育てます。

「それないように頑張る」必要はありません。頑張って注意を固定しようとすると、力が入り、かえって疲れて、集中は続きません。それる。気づく。戻る。この循環を、力まずに回すことが、サマタ(止)の瞑想です(サマタ瞑想(止)とは)。

集中が「続かない」のは普通

瞑想を集中力の練習として始めると、「全然集中できない」「三つも数えられない」と落胆する方が多いです。

しかし、これは普通のことです。初めのうちは、三つで注意がそれるのが当たり前で、それに気づけるだけで上出来です。何週間か続けると、十まで数えられる回が増えてきます。それでも、ある日はまったく数えられない。それも普通です。

集中力の変化は、瞑想中よりも、日常で気づくことが多いです。仕事中に、気がそれたことに以前より早く気づいた。会話中に、相手の話から注意が離れたことに気づいて戻れた。こうした小さな気づきが、瞑想が集中力にもたらした変化です。瞑想中に「集中できているか」を点検しても、見つかりません(瞑想の効果を感じないのはなぜか)。

よくある誤解 — 「集中」と「緊張」の違い

集中力について、一つ大事な誤解を解いておきます。

集中は、緊張ではありません。多くの方は、集中しようとすると、眉間に力を入れ、肩を上げ、体を固くします。これは緊張であって、集中ではありません。緊張した集中は、長く続かず、終わった後に強い疲れを残します。

瞑想で育てる集中は、体がゆるんだまま、注意だけが静かに一点に置かれている状態です。力は入っていない。息は自然で、肩は落ちている。それでいて、注意は息の上にある。仏教が「定(じょう)」と呼んできた状態は、この種のものです。

ですから、瞑想中に「集中しよう」と力を入れていることに気づいたら、まず力を抜いてください。肩を落とし、眉間をゆるめ、息を自然に戻す。力を抜いた状態で、ただ数える。そのほうが、集中は長く続きます。

仏教から見た集中 — 「定」

仏教では、心が静かに一つの対象に留まっている状態を「定(じょう)」、あるいは「禅定(ぜんじょう)」と呼びます。仏教の修行の基本である戒(かい・生活を整えること)・定(じょう・心を静めること)・慧(え・ものごとをありのままに見ること)の三つのうち、真ん中にあたります。

定は、慧の土台です。心が静まっていなければ、ものごとは正しく見えない。だから、仏教の瞑想は、まず心を静めるところから始まります。現代語で「集中力」と呼ばれているものは、仏教が「定」として千年以上前から磨いてきたものと、重なる部分があります。

密教の観法から見ると、集中は、身(からだ)・口(ことば)・意(こころ)の三密(さんみつ)が一つに揃った状態として現れます。体で印を結び、口で真言を唱え、心で観想する。三つが同時に一つの方向を向いているとき、心は散りにくくなります。密教が心だけを使う行をしないのは、体と言葉が心を支えることで、集中が自然に生まれることを知っているからです。

一般の瞑想でも、この構造は使えます。背骨を立てる(身)、息を数える(口に近い働き)、数えることに心を置く(意)。三つを同時に働かせると、心だけで「集中しよう」とするより、ずっと楽に注意が留まります。

康照から、ひとこと

私は、集中力とは「それない力」ではないと思っています。
それます。
何年座っても、それます。
瞑想で育つのは、それたことに、少し早く気づく力です。
気づいたら、戻る。
戻れたら、それが集中です。
集中とは、歯を食いしばることではありません。むしろ、力を抜いて、息の上にそっと注意を置いておくことだと思っています。
それて、気づいて、戻る。
その繰り返しが、人生後半の集中力を、静かに支えてくれるのではないでしょうか。

よくある質問

瞑想を何日続ければ集中力が上がりますか

決まった日数はありません。変化は数週間から数か月の単位で、瞑想中より日常のなかで気づくことが多いです。研究でも、集中力への効果が確立されているとまでは言えない段階ですので、過度な期待は避けてください。

瞑想中に全然集中できません

普通です。それたことに気づいて戻ることが、集中力の練習の中身です。三つで注意がそれても、気づいて戻れたなら、練習になっています。

仕事や勉強の前に瞑想すると効果がありますか

短い瞑想で頭を整えてから取りかかる、という使い方をしている方は多くいます。三回息を数えるだけでも、散っていた注意が一度集まります。ただし、効果の程度は人によります。

サマタとヴィパッサナー、集中力にはどちらがいいですか

集中力に関わるのは、主にサマタ(止)です。ただ、両者は対立するものではなく、サマタ(止)で心を静めてからヴィパッサナー(観)に進む、という順序が伝統的です。初めはサマタ(止)、つまり息を数えることから始めてください。

集中力の低下は年齢のせいですか

年齢とともに注意の働きが変わることはありますが、瞑想はどの年代でも始められます。50代以降から始めて、「気づいて戻る」が早くなったと感じる方は多くいます。

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参考文献

  • Tang, Y.-Y., Hölzel, B. K., & Posner, M. I. (2015). The neuroscience of mindfulness meditation. Nature Reviews Neuroscience, 16(4), 213–225.
  • Goyal, M. et al. (2014). Meditation Programs for Psychological Stress and Well-being: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Internal Medicine, 174(3), 357–368.