瞑想に必ず要る道具は、坐るための座布団か椅子だけです。
音楽やお香は、気持ちを切り替える入口としては役に立ちますが、なければ瞑想ができないものではありません。
道具に頼るほど、道具がないと坐れなくなります。助けとして使い、やがて手放せるようにしておくのが、長く続けるための考え方です。
道具は必要か — 結論
瞑想の道具について尋ねられたとき、私はまず「坐る物があれば十分です」と答えています。
瞑想は、心を一つの対象に留め、逸れたら戻す練習です。その練習に、音楽も香りも本質的には要りません。釈尊は木の根元に草を敷いて坐ったと伝えられていますし、禅の修行者は座布団一枚で何十年も坐ります。
ただし、「要らない」と「役に立たない」は別のことです。音楽や香りは、日常の気分から瞑想の時間へ切り替える合図として、初めのうちは確かに助けになります。また、座布団やクッションは、姿勢を楽にし、足の痛みを減らすという実際の働きがあります。このページでは、道具を「必須」「あると助かる」「注意が要る」に分けて書きます。
坐るための道具 — 唯一の必須
座布団・坐蒲(ざふ)
床で坐る場合、腰の下に何かを敷いて、腰の位置を膝より高くすることが大切です。これだけで骨盤が立ち、背筋が自然に伸び、足のしびれが減ります。普通の座布団を二つ折りにする、クッションを重ねる、で十分です。禅で使う丸い坐蒲は、この目的に特化した道具で、慣れると坐りやすいものですが、必ず買う必要はありません。
椅子
床で坐ることにこだわる必要はありません。背もたれにもたれず、足の裏が床につく高さの椅子であれば、椅子での瞑想は床に劣りません。膝や腰に不安のある方には、むしろ椅子をお勧めします。私も、結跏趺坐でも半跏坐でも椅子でもよい、と伝えています。姿勢の詳細は 瞑想の正しい姿勢 — 椅子でも床でも をご覧ください。
膝掛け・肩掛け
じっと坐ると体温が下がり、冷えは痛みや集中の乱れにつながります。薄い毛布やストールを一枚用意しておくと、季節を問わず助かります。
これ以外の道具は、すべて「あってもなくてもよいもの」です。
音楽は必要か
瞑想用の音楽は、動画配信や音楽配信にあふれています。使ってよいかと問われれば、「入口として使うのはよい、ただし依存しないように」と答えています。
音楽が助けになる場面
– 瞑想を始めたばかりで、静寂が落ち着かないとき
– 日常から瞑想への切り替えの合図として
– 外の騒音が気になり、それを覆いたいとき
– 誘導瞑想のように、声に従って進める方法を使うとき(誘導瞑想(ガイド瞑想)とは)
音楽の注意点
– 音楽に注意が向くと、呼吸や体から注意が逸れます。瞑想が「音楽を聴いてくつろぐ時間」に変わっていないか、ときどき確かめてください。くつろぐこと自体は悪くありませんが、それは瞑想とは少し違います。
– 歌詞のある曲、展開のはっきりした曲は、心を動かしすぎます。使うなら、変化の少ない音がよいです。
– 音楽がないと坐れなくなったら、依存の兆しです。週に何日かは音楽なしで坐ってみてください。
仏教の瞑想は、音を遮断するのではなく、音をそのまま聞くことを練習します。外の音は妨げではなく対象だ、という考え方は 瞑想に向いた場所・環境の整え方 に書きました。音楽で覆うのではなく、音と共に坐れるようになることが、長い目で見た目標です。
香りは必要か
お香やアロマも、よく尋ねられる道具です。
香りには、記憶と結びつきやすい性質があります。同じ香りを瞑想のたびに使うと、その香りを嗅いだだけで心が瞑想の状態へ向かうようになります。これは条件づけの一種で、習慣づけの助けになります。また、香りに意識を向けること自体が、一つの対象に心を留める練習にもなります。
注意点は、煙や強い香りが体に合わない方がいること、火を使う場合の安全、そして音楽と同じく「それがないと坐れない」状態にならないことです。香りは弱めのもの、短く焚いて消すくらいで十分です。
仏教における香
仏教では、古くから香を仏前に供えてきました。香は「仏の食べ物」とも言われ、場を清め、心を整える供養の一つとされます。密教では、修法の前に塗香(ずこう)という粉末の香を手に塗り、身を清める作法があります。これは、香に魔力があるという意味ではなく、「これから修行に入る」という区切りを、身体の感覚を通して自分に伝える行為だと私は理解しています。自宅でお香を焚いて坐るのも、形は簡素ですが、同じ心だと思います。
鈴・タイマー・アプリ
鈴(りん)・チャイム
瞑想の始まりと終わりに鈴を鳴らす方法は、禅でもマインドフルネスの場でも広く使われます。音が消えていくのを最後まで聞くことで、自然と心が静まります。終わりの合図があると、「あと何分だろう」と気にせずに坐れます。仏具の鈴でも、小さなベルでもかまいません。
タイマー
時間を決めて坐る場合、タイマーは実用的な道具です。スマートフォンのタイマーで十分ですが、通知が来ない設定にしてください。アラーム音は、驚かせない穏やかなものを選びます。
アプリ
瞑想アプリは、タイマー、誘導音声、記録の機能を一つにまとめたものです。使い方次第で助けにも妨げにもなります。詳しくは 瞑想アプリは使うべきか に書きました。
服装と小物
- 服装は、体を締めつけないものがよいです。ベルトは緩め、足を組むならゆったりしたズボンを。
- 腕時計、指輪、眼鏡など、気になるものは外してもかまいません。
- 数珠を持って坐る方もいます。真言を唱える瞑想では数珠で回数を数えますが、呼吸の瞑想では必須ではありません。手の形については 瞑想の手の形(印)の意味と組み方 をご覧ください。
道具を増やさないほうがよい理由
道具が増えると、二つの問題が起きます。
一つは、準備が面倒になることです。座布団を出し、お香を焚き、音楽を選び、タイマーを設定する。この手間が、「今日はやめておこう」という口実になります。瞑想が続かない理由の多くは、始めるまでの手数の多さです(瞑想が続かない理由)。
もう一つは、道具が整わないと坐れなくなることです。旅先で、職場で、病院で、道具は揃いません。道具に頼る瞑想は、道具のある場所でしかできない瞑想になります。
仏教の瞑想が目指すのは、どこでも、何もなくても心を整えられることです。道具は、そこへ至るまでの補助輪のようなものだと考えてください。最初は使ってよい。ただ、ときどき外して走れるかを確かめる。やがて外しても走れるようになったら、道具はもう要りません。
康照から、ひとこと
私の瞑想には、特別な道具はほとんどありません。
坐る物があって、時間を決めて、あとは息を数えるだけです。
道具を否定しているのではありません。むしろ、始めたばかりの方には、お気に入りの香りや音が、坐る背中を押してくれることもあると思っています。
ただ、いつか、それがなくても坐れる日が来ます。
その日が来たら、道具はそっと脇に置いておけばいい。
整えるのは道具ではなく、自分の中なのではないでしょうか。
よくある質問
瞑想用のクッションは買うべきですか
必須ではありません。座布団を二つ折りにする、クッションを重ねるで十分です。床で坐ることが習慣になり、もっと楽に坐りたいと感じたら、そのときに坐蒲を検討してください。
瞑想中に音楽を流してもいいですか
かまいません。ただ、音楽に聴き入って呼吸や体から注意が逸れていないか、ときどき確かめてください。週に何日かは音楽なしで坐ることをお勧めします。
お香の煙が苦手です
無理に使う必要はありません。香りは必須ではなく、使うなら煙の出ないアロマや、ごく短時間だけ焚いて消す方法もあります。合わないものは使わないでください。
数珠は必要ですか
呼吸の瞑想には必要ありません。真言や念仏を唱える瞑想で回数を数えるときには役に立ちます。持つこと自体が心の区切りになる方もいるので、お好みでかまいません。


