超越瞑想(TM)とは — マハリシ、マントラ、研究の歴史を公平に

瞑想の種類

超越瞑想(TM)とは、インドのマハリシ・マヘーシュ・ヨーギーが体系化した、マントラ(短い音)を心の中で静かに繰り返す瞑想法です。
1日2回、20分ほど、楽に坐って目を閉じ、努力せずにマントラを唱えることで、心が思考の奥の静けさへ沈んでいく、と説明されます。
1950年代後半から世界に広まり、瞑想を科学的に研究する流れをつくった先駆けの一つでもあります。長所と、議論のある点の両方を書きます。

超越瞑想とは何か

超越瞑想(Transcendental Meditation、略してTM)は、現代の瞑想法の中で、もっとも早く世界に広まり、もっとも多くの研究の対象になった方法の一つです。

名前にある「超越」は、思考を超えて、その奥にある静かな意識の状態に至る、という意味で使われています。方法そのものは簡素で、指導者から授かったマントラを、努力せず、心の中で静かに繰り返す。それだけです。集中しようとも、雑念を払おうともしない。マントラが自然に薄れ、心が静まっていくのに任せる、と説明されます。

ヨーガの系統に属する瞑想法で、インドのヴェーダの伝統を背景にしています。ただし、TMの組織は、これを宗教ではなく、誰にでも使える技術として提示してきました。このページでは、その成り立ち、方法、研究、議論を順に書き、最後に仏教の瞑想から見た位置づけを添えます。

マハリシ・マヘーシュ・ヨーギーと成り立ち

TMを体系化したのは、マハリシ・マヘーシュ・ヨーギー(1918年頃〜2008年)です。インドで物理学を学んだ後、ヒンドゥー教の高僧ブラフマーナンダ・サラスヴァティ(弟子たちからグル・デーヴと呼ばれた)のもとで修行しました。師の没後、1950年代後半に、師から受け継いだ瞑想を一般の人に教え始めたのが、TMの始まりとされています。

マハリシは1950年代の終わりにインドを出て、東南アジア、アメリカ、ヨーロッパで教えを広めました。1960年代後半には、ビートルズをはじめとする著名人がマハリシのもとで瞑想を学んだことが大きく報道され、TMは西洋で広く知られるようになりました。瞑想という言葉が、修行者だけのものではなく、一般の人の日常語になっていく上で、TMが果たした役割は小さくありません。

マハリシは、瞑想を宗教的な行ではなく、心の自然な働きを使う技術として語り、科学による検証を積極的に求めました。この姿勢が、後に述べる研究の歴史につながります。

やり方 — マントラと20分

TMの方法は、公開されている範囲では、次のように説明されます。

  • 1日2回、朝と夕方に、それぞれ約20分行う。
  • 椅子でも床でも、楽な姿勢で坐り、目を閉じる。
  • 指導者から個別に授かったマントラを、心の中で静かに繰り返す。声には出さない。
  • 集中しようとせず、雑念が浮かんでも払おうとせず、気づいたらそっとマントラに戻る。
  • マントラが薄れたり消えたりしても、追わない。
  • 終わるときは、数分かけてゆっくり日常の意識に戻る。

マントラは、意味のない音とされ、本人が公開しないことが求められます。マントラの選び方や、それを授ける手順は、公認の指導者による対面の講習の中で伝えられ、公開されていません。本稿執筆時点で、TMは公認指導者による有料の講習を通じて学ぶ形になっています。

この方法の特徴は、「努力しないこと」が強調される点です。多くの瞑想法が「注意を戻す」という動作を練習するのに対し、TMは「戻す努力すら手放す」ことを説きます。この点は、禅の「ただ坐る」や、密教の「入我我入」の感覚と、言葉の上では近い部分があります。

研究の歴史 — 瞑想科学の先駆け

TMは、瞑想を科学の対象にした最初期の方法です。

1970年に、生理学者ロバート・キース・ウォレスが、TM実践者の瞑想中の酸素消費量、心拍、皮膚抵抗などを測定し、安静とは異なる独特の生理状態が生じると『Science』誌に報告しました。これは、瞑想中の生理的変化を主要な科学誌で示した早い例として知られています。続いて、ハーバード大学のハーバート・ベンソンがウォレスらと共同で研究を進め、宗教や流派を問わず心を一つの対象に留めることで生じる共通の生理反応を「リラクセーション反応」と名づけました。ベンソンのこの仕事は、瞑想を医療の文脈に持ち込む上で大きな影響を与えました。

その後、TMについては、血圧、不安、心血管の指標などに関する研究が多数行われてきました。2013年のアメリカ心臓協会の科学的声明は、血圧を下げるための薬以外の方法を検討した中で、TMについて、限られた根拠のもとで臨床で考慮しうる方法の一つとして言及しています。

一方で、評価は一様ではありません。Goyal らが2014年に発表したメタ分析は、マインドフルネス系の瞑想が不安・抑うつ・痛みに中程度の効果を示したと報告する一方、TMを含むマントラ系の瞑想については、質の高い研究が少なく、結論を出すには証拠が不十分だと述べています。

議論のある点

TMについて公平に書くなら、議論のある点にも触れる必要があります。

  • 研究の独立性:TMの効果を報告した研究の中には、TMの関連組織に属する研究者が関わったものが多く、独立した研究者による検証が十分でない、という指摘があります。
  • 講習の形:マントラや指導法が非公開であり、有料の講習を通じてのみ学べることについて、透明性の面から疑問が示されることがあります。一方で、対面で指導者から学ぶ形は、伝統的な瞑想の伝え方と同じでもあります。
  • 宗教との関係:TMは自らを宗教ではないとしていますが、ヴェーダの伝統や儀礼的な要素を含むため、宗教性をめぐる議論がありました。

これらは、TMを否定する材料ではなく、知ったうえで判断するための材料です。同じような議論は、マインドフルネスの商業化や、仏教の瞑想が特定の宗派と結びついていることについても、形を変えて存在します。

仏教の瞑想から見た位置づけ

TMを、仏教の瞑想の枠組みで見ると、どうなるでしょうか。

マントラという一つの対象に心を留める、という構造は、仏教でいうサマタ(止)の瞑想と同じです。息を数える数息観も、仏の名を唱える念仏も、密教の真言も、対象は違っても、一つのものに心を留めて散らばりを静める、という働きは共通しています。TMは、その対象として、意味のない音を使う、という選択をした方法だと言えます。

一方で、仏教の瞑想は、止の上にヴィパッサナー(観)を置きます。静まった心で、無常・苦・無我という、ものごとの本当の姿を見抜く。TMには、この「観」にあたる部分が、少なくとも方法としては明示されていません。TMの側からは、静けさそのものが意識の本来の姿であり、そこに至ることが目的だ、と説明されます。目指す先の違いは、ヨーガの伝統と仏教の伝統の違いそのものでもあり、どちらが上という話ではありません。ヨーガと仏教の瞑想の違いは ヨガの瞑想と仏教の瞑想 に書きました。

真言を用いる密教の瞑想と比べると、音を繰り返す点では似ていますが、密教の真言は意味と仏との結びつきを持ち、声に出して唱えることも多い点が異なります。詳しくは 真言と瞑想 — 唱えることの意味 をご覧ください。

私は、TMが多くの人に瞑想を開き、科学の検証を受け入れる姿勢を早くから示したことを、素直に評価しています。方法の選択は、人それぞれでよいと思います。

康照から、ひとこと

私はTMの実践者ではありません。
ですから、その内側の感覚を語ることはできません。
ただ、「努力しない」ということをこれほどはっきり言う瞑想法があることには、学ぶところがあると思っています。
私が伝えている数息観も、数えることを頑張りすぎると、かえって心が硬くなります。
流派が違っても、行き着く先の静けさは、そう遠くないのではないでしょうか。
瞑想の道は一本ではありません。むしろ、同じ山に登る道が、いくつもあるのだと思っています。

よくある質問

超越瞑想は宗教ですか

TMの組織は宗教ではなく技術だとしています。ただ、ヴェーダの伝統を背景に持ち、儀礼的な要素があることから、宗教性をめぐる議論はあります。実践する本人の信仰を問わない点は、多くの現代の瞑想法と同じです。

マントラは自分で決めてはいけないのですか

TMでは、公認指導者が個別に授けるものとされ、自分で選ぶ形にはなっていません。一方、仏教の数息観のように、特定のマントラを使わない瞑想法も多くあります。

超越瞑想とマインドフルネスはどう違いますか

TMはマントラに心を留めて静める方法で、仏教でいう止(サマタ)に近い構造です。マインドフルネスは、起きていることに気づく観(ヴィパッサナー)の側に重心があります。どちらが優れているという話ではなく、重心の置き方が違います。

超越瞑想の効果は科学的に証明されていますか

生理的な変化や血圧などに関する研究の蓄積はあります。ただ、研究の独立性や質について指摘があり、メタ分析では証拠が不十分とされた領域もあります。「報告がある」という理解が妥当です。

超越瞑想を学ばないと瞑想はできませんか

できます。呼吸に心を留める数息観など、公開されていて費用のかからない方法はいくつもあります。TMは数ある瞑想法の一つです。

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参考文献

  • Wallace, R. K. (1970). Physiological effects of Transcendental Meditation. Science, 167(3926), 1751–1754.
  • Benson, H. (1975). The Relaxation Response. New York: William Morrow.
  • Brook, R. D. et al. (2013). Beyond Medications and Diet: Alternative Approaches to Lowering Blood Pressure. A Scientific Statement From the American Heart Association. Hypertension, 61(6), 1360–1383.
  • Goyal, M. et al. (2014). Meditation Programs for Psychological Stress and Well-being: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Internal Medicine, 174(3), 357–368.